山の教室/砧 和日
暑さの節目を過ぎた頃から
蜜蜂のからだが次第に
やわらかくなっているとわかった
(そう遠くない未来について
みんなに同じ予感があり)
一つの個体の輪郭の中で
離れていこうとする働きと
元に戻りたがる性質との
せめぎあいのようなことが
少しの間続いたのちに
十×月に雪が降って
冠雪した山の頂から
見たことのないそりが滑り降りる
時間が止まる魔法のように
誰もがそちらに気をとられるまま
ほとんど同時に目を逸らしてしまった
わずか一刹那にも満たない
その小さな空白の間に
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