雑踏の中のひとり/杉菜 晃
 
き捨てにできないことを呟き
何事もなかったかのように
また雑踏に潜り込んでいく

何という人間の不幸だ
洩らしてしまったものも
耳にしたものも
お互いに不幸の根を知悉していながら
しようこともなく
すれ違って行く

たまに僕みたいな抜け作が
振り返ってみるくらいのものだ
人は孤独だ
親がいても ひとり
兄弟がいても ひとり
友達が何人いても ひとりぽっちだ

ひとりぽっちだから
万人に向って
万人の中にいる自分自信に向って
―もう少し生きてみるか―
なんて言い聞かせなければならないのだ
もし僕が彼を見つけて
追いつけたとしても
―もう少しなんて言わずに
   もっと長く生きれよ―
と言ってやることもできないのだ
誰かいるかなあ
そう言ってやれるものが




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