夜明け前の勤め/ひじり
夜明け前
どうしようもなく腹が減ったので
もそもそ蒲団を這い出して こっそり開ける野菜室
梨は無造作に掴み出し さっと洗って皮を剥く
しゃるしゃるしゃる
しゃるしゃるしゃる
大急ぎで厚めに皮を剥いたので
ゴトリと地味な音がして 流しに落ちた青大将
のそりのそりと這い出して 排水溝へぽすんと潜る
しゅるしゅるしゅる
しゅるしゅるしゅる
うっとりするほど白くまあるく輝いたので
獣のようにかぶりつき じゅるじゅる汁を垂れ流す
甘い香りの体液は 腕を伝って雨降らす
じゃくじゃくじゃく
じゃくじゃくじゃく
私は月を食っている どうしようもない空腹で
私は月を食っている 獣のように獰猛に
月は私に食われてる 透明な体液を滴らせ
月は私に食われてる 決して抗うことはせず
がりがりに細った残骸を 山の向こうに投げ捨てる
飢えも少しは治まって 私は蒲団にもぐりこむ
月の不在を埋めるため
そうして今日も陽が昇る
朝
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