黒き蝶/杉菜 晃
女が日盛りの中 黒い蝶を追つてくる
蝶は女の心の反映そのままに
定めなく飛び 深い森に迷ひ込む
木下闇の黒蝶は 決して見えない
陽だまりに現れるのを待つしかないが
いつまでも待つてゐるわけにはいかない
何より心がせいてゐたから
女は幽かな影の揺曳でも見つけると
その方へ身体を泳がせ
森の奥深く侵入する
空を風が渡り
葉がそよぎ
木漏れ日が揺れると
女はそちらへと走り寄る
蝶は見つからず
森を彷徨ふうちに
鼓動は激しくなり
神経はますます研ぎ澄まされて
彼女はつひに風倒木の上に倒れ臥す
ひとしきりして
梢が割れて日の零れくるその中に
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