「秋の夕暮れ」/広川 孝治
秋の風がビルの谷間を
なんとはなしに
駆け抜けてゆく
僕はそれに背中を押されて
当てもなく
歩いている
スーツの裾が少したなびく
同じような服装の人たちが
僕を追い越してゆく
なんだか少し焦りを覚える
それでもあえてゆっくり歩くと
僕の上に陽がさしていることに気づく
風だけではない
傾いた夕陽の手のひらも
僕をやさしく押していた
焦ることはない
ゆっくりでいいのだ
季節に取り残されたような
そんな恐れを
やさしくぬぐってくれる秋の夕陽
つかの間の安らぎを胸に
街路樹をくぐってゆく
僕をつかんで離そうとしない
会社という組織へ向かって
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