音楽/夕凪ここあ
 
私のノートには白い文字で
フラットに似た記号ばかり並んでる

決して声に出してはいけない約束が
一番目に載ってたはずなのに
白すぎるせいで見えない

知らないで言葉にしてしまうと
「ん」から順番に
静かに忘れてく

一つ一つ丁寧に組み立ててきた
わたし という文字さえも
ばらばらの順番で分解されてく

すでに懐かしい フラットの記号の愛称が
思い出せなくなる頃
「あ」が声に出せないままなくなってく

声を忘れた私は 仕方なくハミングで唄う
あなたの名前を口に出せずにいるので
静かに忘れられてく

あなたの背中に爪をたてた
私の腕に爪をたてた
腕に 左手に
私の爪は深爪だから足りない何かでいっぱいになる

やがてそれがフラットに似た記号だったと気づいても
静かすぎる音で逆戻りする一小節もニ小節も先へと

置いてかれた私の横で

あなたが心地良く奏でるハーモニー
私が無意味に奏でるハーモニー

無意識のうちの少しずれてしまった
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