遠くにいる/霜天
空に、鳥の滑空していく
きん、とした音が響いている
いつも何かが足りない
青いだけの視界を補うように
手のひらはいつも、上を向いている
いつも着地する景色には
逃げ出してしまう色がある
やっとたどり着いた空なのに
雨には、凍えた両手を合わせるだけで
いつも、雲も無い
空を斜めに切り裂くように
飛んでいった蝶々の背中
捕まえてみせたその手で
いつか、泣いたことがある
指先から限りなく
ゼロに近い音が漏れる
僕から逃げていくものものを
受け止めているのは誰だろう
歩道の縁をなぞるように歩けば
僕はいつでも、僕のままだった
思う時がある
足りない景色が見たかった
傷跡を何度も傷つけるような
足跡をもう一度踏締めて
空に、鳥の滑空していく
きん、とした音が響いている
着地するその夢だけは
いつも遠くにいる
夏だった
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