『鉄矢と化す』/橘のの
 
言葉」を通行人に
せがまれたりもした


歌はヘタクソなので
かわりに人という字を
教えてあげた


とても喜んでくれた



そうこうするうち
思ったとおり
君が別れを口にした


ぼくは
よーござんすよとか
言っておどけてみせて
冬をよける


こなれたものだ


そーいえば
「僕は死にません」と
まだ一度も言ったことがない

だって
ダンプカーが来ないもの


そしてぼくは
髪を耳にかけ
彼女に背を向け
クシャクシャの顔で
歩きだしたよ



まだ泣くな


まだ泣くな


まだ泣くな


オレ


とか言いながらね。



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