不思議ハウス/虹村 凌
その威厳に申し訳なさそうにしている裸の白熱灯
知らない誰かは出ていって
残された空き缶は汗をかいたまま座っている
手も洗わず電気も消さずに
うずくまって眠る
目が覚めると知らないだれかが
おいしそうな匂いのするご飯を食べている
適当に綺麗に見える食器を出して
一緒に朝ごはんを食べる
知らない誰かは二人分の食器を勝手に洗って
食後の珈琲を飲んで出て行った
昨日汗をかいていた空き缶は
とっくに消えてしまっていた
随分昔の事だけど
天国のドアや階段を探していた事があった
知らない誰かがやり残した掃除をして
知らない誰かの洗濯物を取り込む
排水溝に詰まった数々の煙草を
無理矢理水で流して部屋に入る
そろそろ出かけなくちゃ
玄関先に転がっている
知らない誰かの靴が数足
かすかに聞こえる遠慮気味なベッドの軋み
知らない誰かが湯船でぶくぶくしている音も聞こえる
さぁ出かけなくちゃ
知らない誰かにさようなら
その部屋のドアには
いつも鍵なんてかかっていない
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