森の祭/フユナ
カズラが花をおとし
森に住む蝶が
深々と死にゆこうとする八月
砂地から
こころないひとが訪れる
こころないひとは
分銅の肩を持っており
踏み入ると
腐葉土からは
ムクゲの細かいしぼに似た
小さな小さな蝶たちが
その肩に連綿と留まる
祭が来たのだ。
こころないひとは
ひと呼吸おくと涼やかに
森のこいうたを歌う
分銅のよう
定められた目方どおりにうたごえは
ああ
そのうたごえは
溶解し
蝶は歓喜して微震する
小さな翅が痙攣し
あぶくのような卵をこぼす
蝶たちは
うたを手紙と信じて
疑わない
祭が終わり
こころないひとが
きびすを返して砂地へ去ると
森の蝶は深々と死にゆく
次の祭では
己の死骸を
こころないひとが躊躇なく
踏みしめることを願って
次の祭を
願って
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