岩場にて/杉菜 晃
海岸の岩場のシーワールドでは
イルカが芸をしている
イルカを若い母親と女の子が見ている
ぼくはその少し後ろから
若い母親と女の子を見ている
二人を通してイルカを見ている
女の子がイルカのどんな仕種に
心を動かされるのか
若い母親がその女の子をどう感じ
ているのかを
イルカと結んで観察している
さらにぼくの後ろから
ぼくと 若い母親と女の子を
一直線に繋いで見ている
やや年配の婦人がいる
もし息子が生きていたら
ぼくくらいになっていて
あの若い母親くらいの奥さんがいて
子供がいる
ごつごつした岩場ごしに
そんな人間のドラマが繰り広げられている
一番大きな芸をするイルカはこの際
遠景に霞んでいる
海から飛沫(しぶき)が来て
婦人は少し波を被った
ぼくは振り返っていたわりの声をかける
―大丈夫ですか―
婦人は笑顔を咲かせて
白いハンカチーフを
あちこちにあてている
目許にあてる頻度が高い
―本当に いきなりくるんですものねえ―
ああ 風景は濡れている
ぐっしょり濡れている
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