俺たちとは呼べない俺と君/岡部淳太郎
 
      ――Sに



家に帰ると
君のために心をばらばらにする時間がほしくなる
俺は怪物になれるかもしれぬ
あるいはなれないかもしれぬ
そんなことを思うのもすべては
君のためであって俺は
予報された天気の通りにはもう動けないのだ
周囲のすべての人や物は
みないちように加速をつけてせわしなく
走り回っているというのに
俺の眼にはことごとく緩慢に見える
心を失くしてみれば
花も草もなきがごとしだ
俺は俗物になれるかもしれぬ
あるいはなれないかもしれぬ
俺の根性は弱酸性で曲ったままだが
そんなことを思うのもすべては
君のためであってみれば
すべての風景は
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