虹、虹、雨、曇天、/岡部淳太郎
 
      ――Sに



よく見てみれば世界は逆に回っていた
老人は杖を失い 赤子は乳を失った
退化の兆しを感じ取って皿はふるえ
投げられた石は空中に留まった

世界の最初は奇蹟だった
すべてがあるべき場所に収まっていたのだが
いまや すべてはただ乱雑に散らばっていた
世界はただの遺蹟 登録された資産に過ぎなかった

架けられる橋 そして虹 また虹
多くの人や河童や繊毛虫がその上を歩いたが
それらの虹や橋は現われては消え
また現われるということを繰り返した

日々はいつも平穏で だがたしかに揺れていた
俺は逆回りに回って眼を回しながら彼女に近づいてゆく

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