愁色の午後/前田ふむふむ
ら、通俗的な汚水になって這い回る。
父は、不毛の汗の滲みる赤い海を浴びて、
泣いた。
母は、短いいのちを、砲台の叫ぶ空で、
食んだ。
もがいていき着く詭弁の棲家が、
淀んだみずたまりを低地にほりだして、
二つの崩れかけた強弱の尖塔を、
冷たく描き出す。
遺物の色をせりあげて。
二千八年、八月の夏はくだりゆく。
白い捕囚の紐を幾重にも繋ぎ、
おなじ季節はふたたび回り続ける。
漆黒のひかりは、やわらかい夏の底のひろがりを、
世俗の雑踏のなかで意訳して、
並べられた時間のなかで
陵辱された思想の岩を溶かしてゆく。
底を示さない痛みの連鎖を充たしながら。
燃える夏は、遥か岸辺の歪んだ冬を、
活字の荒野で辿ってみせて、
痛みをもたない、わたしの浅い衣装の胸元を
切り裂いてゆく。
訪れるものは、はじまりを刻む過去、
尚、深い色に馴染ませて、
若い多弁な実像は、空しい夢のなかを翔ける。
波はいつまでも白い。
戻る 編 削 Point(16)