森に為る/山本 聖
 
乾いた呼吸を赦されぬわたしは
ひっそりと
森に息づく
指先をうねる樹の根へと触れると
わたしの左の乳腺がほの暗く湛えるひとつの塊を
まるで心の中のしこりが権化したかのような
小さく痛みをもったその細胞の塊を蕩かすべく
全身の葉脈がいのちのみずを吸い上げる
樹液の甘みと透明な清水
眼球が慣れ親しんだ苔類には
あなたのような深いミドリの匂いを纏わせてとねだって
すべてのイキモノの餌になってしまいましょうと
いのちの色、乳房を這う
おんななどというものは
こんなちっぽけな、しこりなどというものは
流れる樹液の中ではすぐに溶解してしまう砂糖菓子のようなもの
おとこなどというものは
あるいは
いきものというものは
ミドリになってゆく、全身
もう、生も死もどうでもよいほどの、ただのミドリになってゆく
森に棲む
誰も彼もが森になってゆく
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