毬栗の毬ばかりなる里を出る/杉菜 晃
夜になると風が出て
毬栗(いがぐり)は落ちてゐた
次々と
加速されて
硬く冷たい実が
ぱらぱらといふよりは
すぽすぽと黒土にはまりこむやうに
降つてゐた
流星のやうに光つて
夜の底に降つてゐた
私はそれを胸詰まる思ひで
聴いてゐただらう
朝 風も止み
日がのぼつて
出掛けてみると
栗の実がない
夜を通して降つてゐた実が
一個とてない
黒土にはまつたのかも知れないと
永く待つたが
青芽など一向に出てこなかつた
そこで私は
詩のタイトルとした
一句を捻って
古里を後にしたのである
つまり
毬栗の毬(いが)ばかりなる里を出た
のであつた
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