美しい指/石瀬琳々
 
ピアニストの繊細な指だ
白い鍵盤をすべってゆく
まるで水鳥の夢見る羽ばたきにも似た
あるいは
まだ見ぬ色彩を生み出す画家の
狂おしいまでにあざやかな指先
天地(あめつち)を踊る風の曲線
しなやかで強い舞踏家のあの指つき


美青年のささやく指だ
暮れ方の窓辺に頬杖し
何げなく思いにまどろむそのしぐさ
それとも
蒼いペンだこもまぶしい詩人の
言の葉を紡いでいく思索的な指
私の髪を撫でるあのひとの
それはそれはやさしいあの手つき


私は憎む


私のこのか細い指より
美しい
おとこのひとの指を
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