死への誘ない/ajisai
 
少女の体を天へと誘なう
少女の手を引き夜空を月に向かって羽ばたく

少年は死神だった
亡くなった者の魂を誘ない
天使や悪魔へ引き渡すのが務め
人間の様々な死に様を見て
務めを果たすことは
少年にとって辛いことだった

こんな幼い少女の魂を
連れて行かねばならない時は特に

少年は少女の顔を見る事も
声をかける事もできなかった

天国の門が見えてきた
そこには一人の天使が待っていた
少年は少女を天使へと引き渡し
天使は少女の手を取って
天国へと羽ばたいていく

少女がこちらを振り返って
にこやかに微笑んだ
「救ってくれてありがとう、月の使いの方。」

少年は心に月明かりの様な
優しい光が心に広がってゆくのを感じた

救われたのは僕のほうだ

閉じゆく天国の門を見つめながら
少年は月の雫の様な涙を流していた

[グループ]
戻る   Point(2)