影の世界より  デッサン/前田ふむふむ
 
幾度も動かし、
濃淡の密度を入れ替えて、隠された欲望を、
しなやかな肢体に薄めて、
忘却された影絵をつくる。

わたしは、眠れる海原のなかを、起立する閃光から、
嘘を孕む充足したゆらぎを携えて、
真率な腕を一人の女の空洞の乳房にあてがう。
萎えた足は、四つの肉体の下腹部と交わり、
濡れながら通りすぎる。
流れる影は、うすい余韻を浮かべて、消えてゆき、
わたしの欲望の掌に、限りない孤独への逃走と、
底知れぬ欠落が浮かび上がる。

わたしは、沈黙して、墜ちてゆく記憶を、拾い上げて、
夜霧のみずの滲む静けさに、ゆだねてみると、
わたしの涙の深まりが、白い霧の眩暈のなかで、
さらに、溢れて。

うわずるひかりの気配に染まる、
あなたの失われた足音が、
無彩色の夏の奥から、囁いているように、
語りの糸を結んで。

滴る白い宴のひろがりを高めて、
厚い霧の壁のなかで、欲望の乾いた声が、蠢き、
過去の濃厚な夢の安らぎを、囲んで、
満ち足りた死者の時間が、厳かに沈んでゆく。


戻る   Point(14)