約束なんかない日曜/夕凪ここあ
自転車の車輪の横には、
しっぽの先だけがしましまの猫が
丸くなって寝ている
夕方には何処かに行ってしまう猫に
名前をつけよう、と
彼女が言い出したのは
日曜の朝、
決まってサンドイッチなんかを作って
彼を起こす7時20分、
約束なんかしていないのに。
夏休みの朝、人もまばらな一本道を
自転車に二人乗りして
車輪の横で
いつものように丸まっていた猫の名を
耳元で彼に教えたが
風が邪魔で聞こえない。
風がかき消した猫の名前を
一度も口にしないまま
よく晴れた朝
猫は。
飼っているかどうかさえわからないまま
行ってしまった、一本道の先を。
彼女が起こす前に、
起き出した日曜の朝7時20分、
約束なんてしなくてよかった。
猫が車輪の横に帰らなくなったあの日
迷い猫の貼り紙も作らなかった
ただ夕暮れた町を
自転車を押していつもよりゆっくり歩いた
自転車の鍵には
いつまでも揺れている、
彼女がマジックでむりやり書き足した
しましまのしっぽをした猫のキーホルダー。
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