青い夏/前田ふむふむ
 
海が仄かな火を抱いて流れる。
流れは、わたしの新しく柔らかな意匠を溶かして、
かわいた青い夏をひろげる。

みずを失くした海が流す、青い夏は、
白昼の街に横たわり、死者を語り、
練られた風貌を、目次に束ねて、
閲覧の趣きを整えるが、
かなしみの裸の序奏に、触れることなく、
街のあるじの窓に穴をあけ続ける。

見えない音の流れを、丹念にたどり、
ふたたび、振り返る景色は、
わたしの過去たちの手のしわ、落ちる水底の夢、
墜落する夏のほころびたちだ。

かつて、営みを語り続ける渇いた砂丘を、
みずで流そうとした青年は、盲目のひかりの布を、
塗り固めた愁色の音を聞く。
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