犬と くたびれた ある神話/木賊ゾク
 
うしていても思い出もできぬ
そうしてなおさら孤独を知った
私を失い意味を見失う

髪は未だ咲かないユリのように白く
目はいつも憂鬱を引き受けて青く
夜は今も儚い夢ばかり見て
美しいあなたよ

色死んだ犬(DOG)の私は
赤い血さへ見えないで泣き
震える鼓動でない微動を
夕立の缶を鳴らす孤独


少女の名に似た未花は
霞んだ家のその庭に
ぐんなり逆さになった
犬の死体の姿を
再び眺めに来たのか


買ったばかりの
ボラロイドカメラの片隅に
懐かしい濡れ物が写り
あの雨を持って来た頃の日々には


神はもう君さえ救えなく染み付いていたから


今の長雨、明日の長雨、そして、雨の降る日はいつも
私の私だけの私だった片割れの記憶が
抱きしめた可愛らしい神の尻尾が

ゆんゆらとゆんゆらと

       霞のようにただ揺れる


                         
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