海上にて/nt
罰をおそれ 島を出る
黒く深まる空間のさらに奥へと向かい
非力な腕で櫂をくりだし
ボートは枝先のようにじわじわ進む
シャツの汗の総量が
罪の重さを告白する
あの人は私のために
くるい、人々が騒ぎ始め
罪人には死すらも禁じようというので
逃げながら私は
こうして水の助けを借りて浮き
限りなく小さなシンボルとなるのだ
もう重さが問題とならないくらいに薄い
やがてあの人の住む岸も消え
天蓋はいっそう低く
無数の突起が
隙間からの月あかりをかえしては騒ぐが
まなざしの端へと続く虚空を追い
音は吸収されていく
ふちから、ふちへ
記憶の古層をたどる
闇の中の道程は
子宮での旅を思い出させて眠りを誘うが
やがて揺れが
大きな脈動へと変わり出す頃
そこはもはや 海上ではなく
女の肌の上なのかもしれなかった
いきどおり すごいような音をたて
水平線までひろげられた女の腹
憎しみと身体異常をかかえた女の
体温のゆるやかさ
今ちょうど 女の瞳から
夜があふれ出し
私を呑み込むところだ
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