毒のおはなし/山本 聖
に、月が傾くことに気づきもせず、子供は掘る。小さな指先の皮がめくれ、微かに赤が滲んだ時、子供は少しだけ微笑む。傷口に、土が、その湿り気が音も立てずに沁みこんでゆく。
月が、灰色の雲の向こうに消える。
今夜は、と子供は心に誓う。この指先を煮込んだスープを作ろう。そしてみんな、それを食べる。父さんも、母さんも、自分も。父さんも母さんも、あの匂いには気づくまい。気づかぬうちに、あれは少しずつ、みんなの中に吸収されてゆくのだ。
子供は、痒みを引っ掻くかのように、それを掘り続ける。小さな笑みを、火照った顔に浮かべながら。掘り続ける。
月が、灰色の雲の向こうから顔を出す。
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