和解/岡村明子
行きたいところへ行けばいい
と言う
それが
旅路のことなのか
行く末のことなのか
訊けずに
黙って階段を下りる
遠くで犬の鳴く声が
細くたなびく
冷たい石の階段を守る狛犬は
鳴きもせず
誰もいない神社の番をしている
私は不意に諒解する
そうか
私は鎖がほしかったのだ
鎖が私をつないでいれば
あなたがどこへ行こうと
黙って待っていられたのに
エンジンのかからない車を月が照らしている
あなたが発車せずにいる間は
青白く光るその車を眺めていよう
いつか光によって
お互いの影を失うこともあるだろう
そのときはじめて和解できるのだ
言葉ではなく
音でもなく
体中にナイフを突きつけられたように
夜が更けていくのを
じっと耐える
車が
いついなくなったのかも
もうわからない
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