和解/岡村明子
言葉を許してしまったら
どうにも落ち着きが悪いから
とりあえず
旅に行きましょう
ささくれだった
太い指が
地図をなぞるのを見るのも
悪くない
車窓から
見える景色が
山ばかりになっていくのが
暗闇が近づいてくると
私たちの逃げ場をなくすようで
緊張する
いつしか
月がぼんやりと
山際を照らす頃
ナイフを持つはずだった手が
セーターの肘を掴んでいる
神社の急な階段を登りながら
ねえ
あと
何段くらい
と訊くが
あなたは振り返らない
どうしてここに来ることになったのか
お賽銭箱に
ご縁
を投げ入れて
誰もいない神社が沈黙する
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