海/天野 碧
 
気が付いたら 私は生まれていたので
思い出を海辺まで運んでは
昔の写真を見せられて それが私の
こども時代の姿だと言われても とても
私とは思えなくて
昨日の思い出しか食べる気になれず
海辺は 私の食べ残しの綺麗な砂浜となって
キラキラ 笑っている
もう十分食べたかなあと思えた頃に
私はあんなに好きだったのに
その人のことをものすごく憎んでいる
その人の思い出を探して
高台から拝んだ
あんなに好きだったのに
その人にことを憎んでいる私は
気が付いたら 死んでいたので
もう思い出を海辺まで運ばなくても
生きていけるんだわ

離れなかった空ごと
海になって 私を流れた

戻る   Point(3)