何度目かの遺言/蒸発王
 
うに笑った

遺言の日課は
まだ続いているらしい

不躾ながらも気になって
どんな遺言か聞いてみた


  あら
  昔から同じ遺言なんですけども
  お客様には何時も言っている言葉ですよ


恨むことなど
空しいだけ
一生懸命になれば
自分の非力が良く判る

だから

この世の感謝をこめて
ただ

一言
   
  (−お元気で−)



******

  
初春の夜明け
何度目かの遺言を呟き

女将は旅立った


ふと
濡れた瞳で

庭をみると


あの桜が


何度目かの遺言を受けた
桜が


何年も
花をつけなかった
桜が


一気に
満開の花をつけていた


はらはらと
散らす花弁の
其の数が

彼女が告げた
遺言の数のようでもあり




涙 を

流すようでも

あった



(−お元気で−)

  

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