百日紅の下で/銀猫
ひとたびの雷鳴を合図に
夏は堰を切って
日向にまばゆく流れ込む
其処ここの屋根は銀灰色に眩しく反射して
昨日まで主役だった紫陽花は
向日葵の待ちわびていた陽射しに
少しずつ紫を忘れる
あれから幾夏が過ぎたのか
思い出せないくらい鮮やかに記憶は点在して
プールの塩素の匂いや
蝉の声に紛れて
あの日の恋心も影踏み鬼の役まわり
百日紅が赤い
真昼の濃い影を連れて
水玉模様の木漏れ日の道を歩くと
汗ばんだ手のひらばかりが思い出されて
今は昔語り
今年も百日紅 あかい
あかいね
赤い
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