国道/河野宏子
 
夏休みになると自転車で旅に出る男の子たちがうらやましかった。
大きな国道沿いの集合住宅から、蝉のぬけがらを轢いて、
日差しに溶けないように黒くなる細っこい脚の駆け出す
立ちこぎの夏を横目に、わたしには初潮がきた。
プールに行けない理由もうやむやにして去年とおんなじ
アニメを眺め、かあさんの置いてったおにぎりを食べた。
まだクロールも下手だった。

初めてのボーナスが出たので、故郷から車で一時間ほど
隔たった街に恋人と暮らす部屋を借りた。この部屋の夜にも
国道を走るトラックの灯りがはいってきて、傍らに眠る恋人の
顔を別の人みたいに照らしていく。睫毛の影。少し
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