翠の夏/銀猫
 
めろんの翠が涼しい頃
強引な若さだけを連れて
新しい部屋を探したわたしが
照れながら甦る

必ずしあわせになるのだと
啖呵を切って
飛び出した古い家
裏付けるものなど何も無く
ただ
獣のような力だけが頼りだった

新しい水は
それはそれは魅力的で厳しく
泣けない涙が汗で流れて


遠くに打ちあがる花火さえ祝福だった
希望以外の全ての感情を
惜しげなく捨てた




白い皿に美しく切っためろんを並べて
安定と穏やかな時間に
宝物を取り替えたわたしは
甘い果汁に酔いながら
眩しくあの夏を見ている

翠だけが永遠で

時はわたしに降り積み
あの頃希望と呼んだものを
昔、と名づけるこころは生まれた

私の周りで
空気はまた翠に染まる


辛うじて
息を潜めている
夏 ふたつ



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