ひとり暮し/こしごえ
初めての海で
吸いこんだ
風のにおいはふるさとのようで
わたくしは、ただ
何万年も佇んでいたような砂浜の印象へ
飛びこんで
いまこの波の揺らぎに没しようと
荒れんばかりの幾多の波の
底に降りつもる哀しい雪は
わたくしの穴という穴(視線も例外ではなく)
を天文学的数字で裏返し
わたくしの名を失わせる
名の無い者の声は
かすかに震えたかと思えば
かつて凪いでいた水平線へと溶けてゆく
太陽の重さ
に焼けて煙となり
そう雲となって
夜の雨はなんだか遠いにおいがした
そう帰れないような
けれども
雨は帰った
これは
どこへ
漂うというのか
ふ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(15)