リトグラフ/嘉村奈緒
 
 

あたりさわりのない野辺は
どの角度から見ても真直ぐだった
だから
生き物の骨組みはどこからでも見れた


胸のあたりの骨の向こうは
いつも何かが始まって
終わっていた
始まる瞬間や終わる瞬間は決まって
きしきしと鳴っていた
そこに枯れ枝をそよがせると
小さな花火が起こるので
やるせない日よりにはそうやって過ごした
なぜだか
骨の向こうには野辺が見あたらなくて
それがとてもつまらなく感じた



かの骨の軋みよりも
静かな竜巻が気の遠いほうから来て
いっさいがっさいを含み
また果てに去ったあとには
少しゆがんでいる野辺がそこにあった
むきだした私は
自分の骨を数えはじめているうちに
あれの向こうに野辺が見あたらなかった事を思い出したが
きしきしと鳴るので
ああ、もう花火は見れないのだなと
ちいさな目を閉じた



 
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