ヒーロー伝説/佐野権太
 
どういうわけか
秀くんちの裏庭につながっていた
秘密は誰にもしゃべってはならなかった

椎茸のバター焼きと
ほうれん草のピンクのところは
『ニッキ・ニャッキ』の呪文を唱えても
消えてはくれないから
鼻をつまんで
牛乳で流し込んだ
決して、涙を見せてはならなかった

日本に侵攻してきたパンダに
誰もが浮かれていたが
毛皮の中に、スパイが潜んでいるかもしれないから
おもちゃ屋の店頭に並んだ、ぬいぐるみさえ
睨みつけていた
ふいに、父が胸に押しつけたのは
一番小さいやつだったが
黒も白も、妖しい金色に輝いていて
抱きしめると
夕焼けの匂いがした



ヒーローには、なれなかった

立ちはだかる、高層ビルを見あげ
ネクタイを緩める

涙を流しすぎたのか

やっつけなければならないものは
まだ、たくさんあるのに
あの頃のチョップは
もう、
切れ味をなくして

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