お茶目なゴリラはヨーデルがお好き/千波 一也
 
「わたし、ヨーデルが好きなの。」

それがぼくたちの出会いだった
未知の在庫が減少していることは
それなりに聴いていたけれど
まさかここまで及ぶとは

通行人は誰一人として興味を示していないし
彼女(おそらくメスだと思われる)は
期待に瞳を輝かせているし
仕方がないので
ファルセットを披露してあげた

  美しすぎるがゆえに封印されしは裏の声
  不用意に聞いてはならぬ
  触れてはならぬ
  たちまち魅せられ虜になるであろう
  それをも畏れぬこころが在るなら
  いざともに往かむ
  アルプスの頂


「これを飲んでひと休みしましょうよ。」
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