時祭りの 廃墟/水無瀬 咲耶
 
天空を 日が巡る
かげ ひそまる

大型バスを避けて 僕は路地裏へ
しみったれた茨 時を違えて咲き誇る
一輪の薔薇 その棘の在りか
観光客の舌先で淡くとけてゆく
色とりどりのアイスクリーム
緑や赤 黒 そんな時代もあった
全てを越え懐かしい詩の故郷として
混在する ある古城の風景

瑠璃天から清らかな賛美歌
白樺の翡翠の梢 湖水のきらめき・・・
けれども 火の雫が飛び跳ね
もはや木陰にたなびく黄金の草も無い
風は枯れ むきだしの岩には
夜の解放を待つ 乾いた魂が眠る
なだらかな地面にしらけた花が咲き
ゆきすぎる巡礼者 ひなたの蒼い影
鈴の音 幽く 白亜の迷路

切り立った時間の断層から
ガイドは言葉で縛りあげ引き剥がす
たちまち歴史の英雄が現れ躍動すると
観光客は汗を拭き目を輝かせて忙しい

ひなたの匂いと ひそむ かげ
不意に 古い鐘の音が響きわたる
胸がざわめき 彼方を振り仰ぐと
けだるげに 全てが うつろう
真 昼 の 夢 幻

時祭りの巫女姫 木漏れ日の下
紅い唇が 時代を召喚する



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