帰路/
 
少しずつ 遠ざかった街で
午後の地下鉄に揺られながら
僕は いつかの頃を思い出している

目の前を
たくさんの人が
揺られ押され 通りすぎて

毎日決まった場所で
同じように吐き出される

彼らは
どこへ行き
どこで眠るのだろう




歩いていく道の上で
ふと立ち止まってしまう
そんな心情を今
何故だか僕は持ち合わせている

そうやって
持ち主不明の荷物は増え続ける


明日行くべき場所を
知っているということ
帰ることができるというのは
きっと そういうことなのだろう

あの頃
また明日
という言葉の先に
正しく明日がやって来たように



気が付けば
降りるべき駅は
大分前に通りすぎてしまったけれど
それでいて
まだずっと先のようでもある

言い聞かせ呟いても
声はただ 空気に溶けるばかりで


ひとりきり
どこへ帰ればいいのだろう

今もまだ
あの日の空を 見上げたままで



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