鎖帷子のおれ、癒され過ぎ。/カンチェルスキス
世でいいことはないじゃないか。
ホームの階段を下りると、そのカビ男がおれに話しかけてきた。
「あの」カビ男は言った。「早い話、あんた、裸ですよ」
「おれ?」
初めて気づいたが、いいなとおれは思った。裸でいいじゃないか。この世で裸ほど気分が晴れ晴れとするものはないじゃないか。台所のステンレスの表面上に裸で何をするでもなくただ立つ。男だろうが女だろうが関係ない。性別など問わない。もちろん年齢もだ。メロンパンが好きかどうかだけは問う。好き ×。 嫌い ○。おれさ、中学校時の陸上部の顧問に駅伝練習の後で必ずメロンパンを食わされたんだ。何も飲ませずにさ。喉渇いてるときのメロンパンはきつい。それ以
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