鎖帷子のおれ、癒され過ぎ。/カンチェルスキス
服着てくるの忘れたかなあとおれは思った。前に一度だけ、ずいぶん前だったと思う、その日ちょうど街の海岸で花火大会があって、電車で海まで出かけたんだ。おれは車窓を眺めながら、前に座ったカップルが扉の前に立ってるやつを見てしゃべってるのを聞いてた。
「あいつ、頭にカビが生えてるぜ」
「どの人?」
「あの扉んところ、カビ臭い緑色の頭のやつ」
「ほんとだ」
「流しの下で暮らしてるんだろ」
「あれは天然色ってことなのかな」
「タダだ」
「タダね」
おれも実はそいつのことをカビみたいな頭だなと思ってた。カビ男。いいなと思った。タダで髪を染められるんだ。タダほどこの世で
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