ビューティフル・リング/蒸発王
初めて指輪を贈った人は
彼女ではなくて
母だった
『ビューティフル・リング』
僕は7歳で
母に連れられて
縁日の夜店を廻っていた
ふと
屋台に並んだ
ガラス玉の指輪に
母が通りすぎながら
綺麗ね
とつぶやいたのだ
当時の僕にしてみれば
母が絶対基準だった
ただ 純粋に
母が喜ぶ顔を思って
其の手を振りきり
一度通りすぎた路を引き返した
どうにか漕ぎ付いた店で
一日20円のお小遣いから
200円をひねり出して
ピンクガラスの指輪を買った
父は忙しい人で
ほとんど家に居なかった
母は明るい人だけど
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