その背中に向けて/でこ
つらい、と叫ぶ人だけがつらいのではない
うれしい、と微笑む人が本当に満たされているわけではない
すき、と言う人がいつまでもそばにいてくれる保証はない
きらい、と背を向ける人が常に素直なわけではない
曖昧なものが愛されて
厳格なものはうとまれる
現実は錯覚の連続にすぎないから
聞こえる言葉が、すべて傷の入ったCDのようだった
みんなが、ぬいぐるみになってしまった気がしていた
今日、どきりとしたのは
久しぶりにいっしゅん触れた
あなたのてのひらがあたたかかった、ということ
けれど盲目なわたしは
ぬくもりにすら応えることが出来なかった
こんなにすぐそばで生きていたのに
こんなに大きな愛情で包んでくれていたのに
わたしを叫ぼう
本当の声で
素直な気持ちで
いま
遠ざかるあなたに聞こえるように
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