雲を売る話/ZUZU
 
父が
キタロウの目玉だなんて
なんだかわからないのとおなじくらいわからない話だ

雲にきまった形はない
だからみな時価だ
ぼくのお店には椅子がひとつに
日差しよけの板が貼ってあるだけだ
あとはのれんに雲
すべて時価なり

お客はひとりもこないが
なんともよいきもちだ
今日の雲はいい形だし
あれなら高くで売れるだろう
八万円でもおかしくはないとぼくはおもう

ああそうして
毎日雲をみて暮らすよぼくは父さん
夏には大きな入道雲が出るだろう
あれは三百円でいいとおもう
父さんならいい雲をあげるよ
だからたまには散歩にくるといいよ

親子づれが店の前にきて
こどもが雲をほしいと言った
その父親がいくらかねと言った
ぼうやにどの雲がほしいのときくと
ぽっかりしたのがいいやと言った
それでぽっかりしたのをひとつえらんだ
二百円で売れた
今日売れたのはひとつだけだった
帰りに綿菓子を買って帰った




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