幸薄き人の声を/逢坂桜
 
・・・一人は流れて、一人は死産でした。

 子供でもいれば違ったのか、ひもじい思いをさせずに済んで、よかったのか・・・」

そんなことを言っていたけど、よくわからなかった。

聞いたこともない言葉だらけだったから。

「なのに。
 
 いまわの際で。

 私を枕元に呼んで。

 苦労かけた、なんて。

 済まないことばかりした、なんて。

 おまえのおかげで生きてこれた、なんて。
 
 そんな言葉だけで・・・」

泣きたいのか、笑いたいのか、苦しそうににらんでいた。

「・・・許してしまった・・・」

雨と風の強い日、私はおばあさんの声を聴いていた。

夏が終わって、おばあさんはどこかに連れて行かれた。

その冬、亡くなったと、聴いた。

あの人の幸せは、どこにあったんだろう。

結婚してから、夏の終わる頃、時折思い出す。

ほんのひと時垣間見た、あの強いまなざしを。

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