なにもないうた。/まほし
 
「えくぼ」


六月の風にゆれる
さくらの葉っぱ。
よく見たら
ぽつぽつ 穴があいている。
虫に食べられてしまったのだろうか?

穴は どこかの虫の命を みたして
穴は みずみずしい空に みたされ

わたしのこころの
ちいさなえくぼにも
すずしい光を そそいでいる。




「オカリナ」


オカリナは、ね。

目にみえる
ゆびでふれられる
鳥のかたちをした土だけが
ほんとうではなくて、

目にみえない
土につつまれた
ほっこりした空っぽこそ
たましいなのかもしれない。

空っぽで
なかったら
息はとおらない。

空っぽが
なかったら
うたは羽ばたかない。

 


「おかあさん」


わたしの宝箱には
何もないと言って
涙こぼしたときも、

あなたこそ宝だと
掌の玉のように
いとおしんでくれた、

おかあさん。
あなたがいなかったら
わたしもいなかった。



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