曳航/霜天
 
思い出だけで終わらないために
日々は刻まれて
小さく、はらりと落ちていきそうなものが
私の中で対流している

一番最後の麦藁帽子が
夏の見える丘の、少し西の辺りを
沈んでいった日のことを
生まれ変わる傷口のために
触れられない悲しみについて、考える


沖に舟を漕ぎ出した日には
遠くのことが見えるようになる
後ろから手を、引かれたことを
飛礫が消えていくように
静かに置き去りにしていく

謝りながら
手を
謝る方へ向けながら


あの日も
疲れていく指先を
少しの力で時計に合わせてくれた手を
漂流する交差点で、覚えている
一番最後の麦藁帽子が
今も海の沖のところを、引かれていく


太陽の胸の内
人は帰っていくことが出来る
いなくなる声と声、とが
私の中をいつまでも対流している
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