無題/.
 
通り雨が春の香りを全て洗い流したことを告げた
淡い緑色をしたカーテンを揺らす風が
頬を少しだけ撫でてくれている

そういうふうに風が流れている



男が乗り込んだ電車は
いつもよりも少し雑に揺れる
その電車の中で彼女は
ヘッドフォンによって構成されている
使い古しの感情の中を泳いでいた

向いに座る背中の曲がった老人は
初恋の女学生と楽しそうにおしゃべりしている
それはもうとても嬉しそうに
しわくちゃの笑顔を浮かべながら
あたかもそこに女学生が居るかのように

僕はといえば、君以外のことを考えている
左に流れる田園風景がそうさせているのだろうか
日比谷
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