狂詩曲/シホ
 
母さん僕はやってしまった
やってはいけないと
あなたが無言のうちに
僕にさとそうとしていたことを

母さん僕はやってしまった
あなたの愛憎をきわめて
そして僕の中ではいつも
不在と実在のはざまにいた
父さんという人と同じことを

僕はやってしまった
引金をひいてしまった
血は流れたか悲鳴はあがったか
人は倒れたか僕はそこに立ちつくしたか

僕はやってしまった
そのあと血と殴打と牢獄を見た
しかし牢獄のなかで
僕は思うのだ
あのとき僕の銃口は僕自身のこめかみに

しかし母さん僕はね
あなたのもとへ還りたかったのではない
無への郷愁にすがったわけではない
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