Cats/みつべえ
 
 誰が吹いたか知らないが、ひと吹きの風がごちゃまぜの花の香気を運んできた。開け放されていた窓から侵入してレースのカーテンにぶつかった。カーテンは後ろへ飛びのくような格好で家の内側にふくらみ、左右に風を逃がすとおもむろにもとに戻った。
 芳しい置き土産が残された。
 ラッタはちょうどカーテンの真下、樫材の机の上に寝そべっていた。まどろみながら、拡散して落ちてくる花の芳気を嗅ぎわけた。
(ツツジ、コブシ、ヤエザクラ、ジンチョウゲ、ちぇっ、食い物はないな)
 ラッタは目を覚ました。大きく伸びをすると、これまた大きく欠伸をした。
(さあて、と)ラッタは四肢をふまえて立ち上がった。そしていつものよ
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