葛西佑也過去作品集?/葛西佑也
 
り投げ
まるで動物のようにむさぼりついた


ある国では
私は裕福な家の少女のぬいぐるみだった
たくさんある少女のコレクションの一つだったが
いつも綺麗にしてもらえて
それなりに幸せだった
少女の両親は忙しくて
家にいることは稀だった
少女はいつも寂しそうに
私を恨めしそうな目で見つめるのだった
私はすぐに家出した

ある国では
私は寂びれた村の教会の鐘だった
ただ月日だけが流れ
私が鳴ることはなかった
戦争が始まった日
私は避難警報の代わりを務めた
村の人は皆
我先に我先にと逃げてしまい
私はひとり取り残された


「こんとん」という言葉で
ひとくくりにされてしまったこの世界に
私の居場所は無い


だが
私は平和を祈ることをやめない

そう
私は忘れないある国の記憶を。

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