夜の光景/クリ
蟀と、力ない蚊柱。
泥の色の凍りついた残り雪が作る
世界でいちばん小さいクレバス。
無音の夏の土曜日の午後
草いきれと太陽の匂い。
誕生日の朝と雪虫の光景。
海の向こうはロシア。
あなたはいつまでもそこにいる。
いつもここにいた。
邯鄲に シャングリ・ラに
ドリームタイムに ラグナロクに
世界樹の根元に ヴァルハラに
そして神威の髭の先に。
ライオンが寝ている。
淋しい山猫が空飛ぶ絨毯に乗って影絵の中を渡っていく。
あなたの寝台はサルガッソーの海を漂う小舟だけど
あなたはちっとも恐くない。
ただ寂しいだけだ。
まるでひとりぼっち。
ひとりぼっちだったと思い込む。
そうして困惑する。
ひとりぼっちは真実だったのです。
恋人とあなたは
どの時間も共有しなかった
今でさえ。
この夜さえ。
何故なら夜は
あなたの体内の臓器だからです。
Kuri, Kipple : 2000.04.09
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